THE GIFT
「一度何かに焦点を合わせたら、アイデアがやって来るまで、頭の中で奏で続ける。大抵の場合、それが曲全体の鍵になる。アイデアこそが大切だ。アイデアは私よりも、遥か昔から漂っている」
Q:最近あなたがリリースしている作品の多くは、年を取ることについて歌っています。かつてあなたは、人は引退するのではなく、消えていくと言いました。活力を失うと。あなたは今73歳で、ひいおじいちゃんです。
A:人は年を取る。情熱は若者の舞台だ。若い人は情熱的になれる。年を取ったら、もっと賢くならなくてはいけない。長らく生きているのだから、ある程度は若者へ譲るべきだ。若者のように振る舞ってはいけない。自分を傷つけることになる。
Q:1966年あたりに、あなたは隠居生活を送りました。その理由は、多くの憶測を呼びました。しかしあれは、家族を守るためだったのですよね?
A:そうだね。
Q:人々はそう理解したくなかったのだと思います。アーティストとしてあなたが作り出す独特な世界観が、あなた自身がそのような人だと勘違いさせてしまいました。しかし現実には、あなたは子供を守る典型的な父親でした。
A:そう。私は自分の芸術すら諦めざるを得なかった。
Q:それは苦痛でしたか?
A:もどかしくて苦痛だった。天から授かった音楽の才能が、私をそこまで運んでくれていた。それを止めるのは辛かったけど、選択肢はなかった。
Q:そして今、あなたは生活の大半をツアーに費やしています。年間100日です。あなたのお婆さんはかつて、何かへ続く道の先に幸せがあるのではなく、道そのものが幸せだと言ったそうですね。
A:彼女は素晴らしい人だったよ。
Q:あなたを観に来る人々から、多大な喜びと心の繋がりを得られるのでしょうね。
A:世界中の試合に出ているスポーツ選手と似ていると思う。テニス選手のRoger Federerは一年のほとんどを働いている。年間250日かな。B.B.King以上だよ。人々がいる場所へ行かなくてはならない。ロスでしか演奏しちゃいけないという契約でもない限りね。しかし幸せとは…幸せについて話していたよね?
Q:そうですね。
A:多くの人々が、人生に幸せはないと言う。確かに永遠の幸せはない。でも自己満足が幸せを作り出す。幸せとは、無上の喜びを感じている状態だ。例えば美味しいものを食べたとき、そのひと時は満足するかもしれない。でも次の瞬間には変わってしまう。人生は浮き沈みを繰り返す。時間は私たちのパートナーであるべきだ。そして時間は生涯の友だ。子供たちは幸せだけど、それはまだ浮き沈みを体験していないからだ。本当を言うと、私は幸せの意味すら分かっていない。個人的に、その言葉を定義できるかも分からない。
Q:幸せに触れたことはありますか?
A:誰でもあると思うよ。
Q:その幸せを維持しましたか?
A:皆、人生のある時点では維持すると思う。でも水のように、それは手のひらから零れ落ちる。苦しみがあるからこそ、人は幸せになれる。不運に見舞われた人が、どうやって幸せになれるのか?お金が人を幸せにするのか?車を30台持っていて、スポーツチームを買えるような億万長者は幸せか?何が彼をより幸せにするのか?外国に資金援助することか?この国の貧困地域にお金を使って、職を作り出すことか?職を作ることが政府の責任というのは、誤っている。職は人々が作り出すものだ。億万長者なら、それができる。貧困地区には犯罪が溢れ、今にも爆発しそうだ。辺りをふらつき回るしかない人々が、酒やドラッグに溺れ、殺人の常習犯になってしまう。そうなる前に、億万長者が彼らに仕事を与えることができたはずだ。そうすれば沢山の幸せが生まれると思う。もちろんそれは彼らの義務ではないし、私はコミュニズムについて話しているのでもない。でも金をどうやって使うのか?高潔なやり方で使うのか?高潔の意味が分からなければ、ギリシャ語の辞書を引いてみるといい。女々しいところは何もないよ。
Q:彼ら億万長者は焦点を変えるべきということでしょうか?
A:そうだね。この国には間違っていることが多々あり、貧困地区は特にそうだ。危険な土地になってしまっている。善良な人々もいるけど、職不足に圧迫されている。彼らは皆働いているべきだ。億万長者が、その数はどんどん増えているようだが、この国の貧困地区に産業を作り出すことができる。しかし誰も彼らに指示することはできない。神が導くしかない。
Q:そして生産的な仕事をするということは、ある意味では救済となりますか?自分がすることに価値とプライドを見出せるということは。
A:間違いなくそうだよ。
Q:あなたの才能について聞かせてください。舞踏家のGeorge Balanchineは自分のことを、ミューズ(芸術の神)に仕える僕だと言いました。ピカソは、自らを創造的プロセスのボスだと言いました。あなたは長年にわたり、どのように才能と向き合ってきたのですか?
A:(笑)
Q:変な質問でしたか?
A:創造性について言うなら、私はいつだってピカソの席に座りたい。自らを創造的プロセスのボスだと、私も考えてみたいものだ。自分のしたいことを、何でもできれば素晴らしい。でももちろん、そんなことはできない。シナトラのように、ピカソのような芸術家は一人しかいない。私はGeorge Balanchineと同じような考えだ。創造的プロセスを押さえつけるのは簡単ではない。
Q:捕まえにくいものですか?
A:まさにその通りだ。制御できるものではない。私の場合はまず、コンサートでどんな曲が必要かを考える。どんな曲が欠けているか。同じことを何回もやるより、自分が何を持っていないかを考える。あらゆるタイプの曲が必要だ。速い曲、スローな曲、マイナー調の曲、バラッド、ルンバ。コンサートのときには、それらを全て操る。実はここ何年間も、シェークスピアのドラマみたいな感覚を持つ曲を作ろうとしている。一度何かに焦点を合わせたら、アイデアがやって来るまで、頭の中で奏で続ける。大抵の場合、それが曲全体の鍵になる。アイデアこそが大切だ。アイデアは私よりも、遥か昔から漂っている。エジソンが使い 始めるより前から、電気が存在していたように。レーニンが占領する前から、コミュニズムが存在していたように。実際に曲を書き始める何年も前から、ピートタウンゼントが「Tommy」のアイデアを頭に描いていたように。創造性がアイデアを作り、アイデアを何とかしようとするときに、インスピレーションが必要となる。しかしインスピレーションが、アイデアを呼ぶことはない。
Q:あなたは惜しみなく質問に答えてくれました。
A:とても面白かった。最後にインタビューを受けたときは、音楽以外のことを質問された。でも私はミュージシャンだ。60年代からずっとそうだ。医者や精神科医、大学教授、政治家にするような質問をしてくる。どうして私にそんな質問をするのだろう?
Q:ミュージシャンには何を質問すればいいのでしょう?
A:音楽!それしかないよ。