2015年1月20日火曜日

Live Review / 向井秀徳アコースティック&エレクトリック (2015.01.08)



アーティスト:向井秀徳アコースティック&エレクトリック
日時:2015年1月8日(木) PM7:30~
場所:代官山晴れたら空に豆まいて 

「晴れたら空に豆まいて」。この不思議な名前の会場が、向井秀徳アコースティック&エレクトリック15年ライブ初めの舞台だ。代官山駅すぐの地下二階にあるこの場所は、江戸時代のお屋敷風の内装。床には畳が敷かれ、ちゃぶ台が至る所にあり、ステージはさながらお立ち台。演者を巨大な和傘が覆っている。異様な空間だが、向井の雰囲気と合っている。開演前から胸が高まる。
アコエレのライブでは、ZAZEN BOYSのベーシスト、吉田一郎がグッズを手売りする。開演直前には客間を縦断し、向井の入場経路を整理する。お馴染みの光景だが、やはり妙で、周りの人も笑っていた。

ほぼ定刻通りに、向井秀徳が登場。黒いハット、青い長袖シャツという服装で、「猫踊り」を弾き始めた。ギターよりも何よりも、向井の声が直接的に響き渡る。アコエレ特有の音作りに、すぐに引き込まれる。バンドでは絶えず叫んでいるが、今は一文字一文字を大切に噛みしめている。J-POP特有のハイトーンな絶唱に陥ることなく、話し声に近い音域を、力強く歌う。まるでフランク・シナトラだ。やはりこの人は歌がうまい。 

「マツリスタジオから、キラキラーっと輝きながら、やって参りました」「This is 向井秀徳」いつも通りの自己紹介に続き、定番曲を連発していく。「6本の狂ったハガネの衝動」では、ギターを持った日本語ラッパーに豹変。会場が緩やかに揺れ。「感覚的にNG」のギターが、今夜はとても重く響いた。不安定なコードが鳴り、夕立前のあの空気感が一気に広がる。筆者隣の金髪男性も、すぐに立ち上がった。「この世の終わりを感じさせる~」のブリッジパートはこの曲最大の見せ場だが、今日はいつもより切実に聞こえた。向井の歌詞は意味不明かつ訳が分からないが、目の前で歌われた瞬間、風景が現れる。「He sings it like he means it」というよりは、「He sings what he means」。いや、「He means what he sings」。向井の物語は、これほどまでに現実を伴い、聴き手に襲いかかる。

珍しくスライドバーを装着した「The Days of Nekomachi」に続き、半分以上は無伴奏の「SHIGEKI」を披露。この辺りから、向井のテンションが上がってきた。手拍子を強要しつつ、それを全く無視したリズムで演奏。観客は笑いながら、それでも拍手を送り続ける。「Sugar Man」とはタモリであるという結論をくだし、「Sabaku」はエレキギターで演奏。ZAZEN BOYSでは語り口調の曲だが、原曲はこうだったのか、それともアコエレ用にアレンジし直したのか。曲の構成も変えているから、アレンジし直しているのだろう。 

はあとぶれいく」で第一部が終了し、トイレタイム。小さなお店だったので仕方ないが、トイレが二つしかなく、しかも男女共用。用を足すだけで20分くらいかかった。

第二部は期待通り、ナンバーガールの名曲連発で開始。「TATOOあり」までの4曲が圧巻で、佇まいから雰囲気、そして目つきまで、当時の向井に戻っていた。ZAZEN BOYSの新譜を聴くたび、ナンバーガールは遠い過去のように感じてしまう。しかしこの人の中ではずっと、歴史として繋がっている。モリッシーはかつて「We remain as we always were.」と言った。きっと向井もそうなのだろう。

「前髪」もエレキで力強く演奏。2013年のツアーでは、明るいフォーキーな曲だったと記憶しているが、間違いだろうか。しかしこの曲、歌詞、曲調ともにナンバーガール生き写しで、当時からのストック曲かと考えてしまう。これに続いて「TUESDAY GIRL」でナンバーガールに戻ることからも、この推察は大ハズレではないと思っている。

ループとディレイを駆使した幻想的なイントロが印象的だった「性的少女」。そしてアコエレ不動のショウクローザー「自問自答」に続く。ひたすら情景描写、誰かの物語を紡いでいくところは、さながらボブ・ディランのDesolation Row。しかし向井は(Desolation Row同じく)この10分にわたる曲の歌詞を暗唱するのではなく、その場で文脈を再構築し、新たなバースを吹き込む。形式、スタイルに囚われて、座りのいい言葉を使っているのではない。向井の目には本当にこういう世界が見えている。そしてそれを伝える必要があると信じている。「日曜日の真昼間~」のくだりでは、電動自転車で渋谷から新宿まで行き、ベイマックスを見るために一人で券売機に並ぶも、残席ゼロの表示を見つけ、代わりに狂った母親が息子の性器をハサミで切り落とす映画を見た、という新たなストーリー、おそらく本人の実話が挿入される。この人は詩人である。

この時点で開始から2時間半が経過、22時をまわっていた。

アンコールを求める拍手が長い間続いた。今夜はアンコール無しかという不安を一蹴し、向井登場。エレキギターで「ざあざあ雨」を演奏した後、重いディストーションに音色変更し、スライドバーでアドリブ。ただの即興演奏に聞こえたが、おもむろにお経を読みだした。「Riff Man」のブリッジ部分と似ている。しかしよく聞いてみると「NUM-HEAVY METALLIC」だ。原型はほとんどなく、2小節ギターを弾いて2小節歌う、ブルースの体裁。アコエレでは初演かもしれない。

アコギに持ち替えて「東京節」をさらりとプレイ。これでアンコール終了かという会場の思いとは裏腹に、向井は物足りない様子。突然ストーンズのリフを弾き出すも、「いや違うか」と言って撤回。ビートルズの「Blackbird」を演奏した後、「リクエスト受け付けましょう。私、何でも歌えますから」発言。戸惑いと笑いが観客の中に混ざり合う中、「私が今までやったことない曲で」と向井から縛りが追加された。1人が恐る恐る村下孝蔵をリクエストすると、「初恋ですか。良い曲ですよね。私、中学の卒業式で歌いましたよ」と言いながら、コードを探り始める。ギターに合わせて歌い始めるも、途中で断念。最後はアカペラになっていた。

その後も終始ご機嫌で、膨大な量のカバー曲を、あるものはギター片手に、あるものはアカペラで演奏していく(「津軽海峡~」では、リクエストを出した観客に全て歌わせていた)。違う曲を始めては途中でつまずき断念、を繰り返し続ける。飽くなき探求と好奇心。これがMATSURI SESSIONなのかもしれない。

最終的には写真撮影とサイン会になり、観客をとことん満足させてコンサート終了。演奏曲はおろか、MCまで事前に決めてコンサートを行うバンドが多い中、向井は一人、アクシデントを求めてセッションを繰り返す。同業者にも熱心なファンが多いこの男の本質が、いつもより少し深く覗き見られた夜だった。

第一部
1.    猫踊り
2.    Waterfront
3.    Young Girl 17 Sexually Knowing
4.    6本の狂ったハガネの振動
5.    感覚的にNG
6.    The Days of Nekomachi
7.    SHIGEKI
8.    Sugar Man
9.    SAKANA
10.  Sabaku
11.  はあとぶれいく

第二部
1.    SENTIMENTAL GIRL’S VIOLENT JOKE
2.    鉄風鋭くなって
3.    ZEGEN VS UNDERCOVER
4.    TATOOあり
5.    PIXIE DU
6.    前髪
7.    TUESDAY GIRL
8.    ふるさと
9.    OMOIDE IN MY HEAD
10.  性的少女
11.  自問自答

アンコール (4曲目以降順不同)
1.    ざあざあ雨
2.    NUM-HEAVY METALLIC
3.    東京節
4.    Blackbird (the Beatles)
5.    初恋 (村下孝蔵)
6.    とんぼ (長渕剛)
7.    関白宣言 (さだまさし)
8.    サーカスナイト (七尾旅人)
9.    津軽海峡冬景色 (石川さゆり)
10.  The Levee’s Gonna Break (Led Zeppelin)
11.  Brown Sugar (the Rolling Stones)
12.  Jampin’ Jack Flash (the Rolling Stones)
13.  その他 (Coldplay、チャットモンチー、Perfumeetc…)
14.  守ってあげたい (松任谷由美)

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