Premier Guitarというサイトに掲載された、Andy Bellのインタビューです。楽器との出会い、影響を受けた音楽、Rideのレコーディングなどについて語っています。当時のシューゲイザーについて詳しくない方も、楽しめて且つ勉強になる内容です。
リリース日:2016年2月8日
以下、筆者による翻訳。
80年代後半、イギリスの大部分がアシッドハウスに没頭していた頃、新しい音楽が様々な大学都市で始まっていた。My Bloody Valentine、Dinosaur Jr.、Spacemen 3などのノイズグループと、Cocteau
Twinsに代表されるドリーミーなバンドに影響を受け、アート感覚を持ったミュージシャンたちは、ロックにアンビエントなギターを加え、新たな可能性を探った。
パンクの「誰でもバンドが組める」というエゴとは無縁の哲学、ギター、ベース、ドラムの基本的な楽器編成、ドローンサウンドとメロディの融合。彼らは新世代のサイケデリック音楽を作った。しかし外部を遮断するような雰囲気は、足元のエフェクターに頼り過ぎという印象を与えた。更には俗物根性とまで批判された。音楽誌メロディメーカーは、既に始まっているパラダイムシフトに気付かず、彼らを「自分で自分を祝福する音楽シーン」「シューゲイザー」と名付けた。その創造性が数十年後も痕跡を残すことになるとは、当事者も含め、ほぼ誰も考えていなかった。しかしSlowdive、Lush、the TelescopesのDNAは、A Place To Bury Strangers、Mogwai、Sigur Ros、Yeah Yeah Yeahs、I Break Horsesといった現代のバンドにも受け継がれている。
オックスフォード出身のアンディベルがライドを結成したのは1988年。周囲と同じくノイジーなギターを身に纏っていたが、ボーカルのハーモニーと12弦ギターによって彼らは独特の存在になった。成功を収めた何枚かのアルバムの後、バンドは1996年に解散。その後10年間、ベルはオアシスのベーシストになった。
未だに絶大な影響力を持つファーストアルバム「Nowhere」は、2015年10月に25周年を迎えた。「90年代ベスト~」「最も影響を与えたアルバム~」などのランキング常連である。ブックレット、写真集、ベル執筆のライナーノーツ、更には初登場となるロンドンのタウン&カントリークラブでのライブを収録したDVDと共に再発される。
昨年4月、再結成したライドはコーチェラに出演、年末まで続くワールドツアーに乗り出した。バンドの歴史、シューゲイザーの発展、自身の進化、そしてお気に入りの機材について聞いた。
Q:ギターが最初の楽器だったのですか?
A:家にウクレレがあったけど、ハマることはなかった。9歳の誕生日に、ギターが欲しいと言ったよ。ナイロン弦のクラシックギターを買ってもらい、レッスンにも通った。でもすぐに飽きてしまった。叔父さんからコードを教えてもらい、フォークソングも弾けるようになった。でも全てが始まったのは1983年、ザ・スミスを初めてラジオで聴いたときだ。本当に素晴らしいサウンドで、すぐにカセットを買いに行った。気付いたらジョニーマーのギターをコピーしていたよ。
Q:マーは素晴らしいです。最初にコピーする対象としては、とても難しいと思いますが。
A:僕は「This Charming Man」をコピーしようとしていた。でも僕のバージョンを弾いていた、と言う方が正しいかな。もっと多くのコードを覚えなきゃと思った。クラシックの理論や楽譜を読む練習はしなかったけどね。だから僕のEコードは未だに間違っているよ。レッスンの講師が弾いたものを、僕は同じように弾いた。でも彼は「君は正しく弾いている。でもやり方は間違っている。なぜなら君は楽譜ではなく、耳で聞いているからだ」と言った。「正しく弾いているなら、やり方なんてどうでもいいじゃないか」と思った。楽譜を見ると、音楽的失読症みたいな気になる。でも耳で聞けば、簡単に理解できる。
Q:エレキギターを始めたのはいつですか?
A:クラシックギターでレコードに合わせて弾いていたら、やがて両親の友人がホフナーをくれた。黒くて、ピックアップが三つあって、ジャズマスターみたいに沢山のスイッチが付いていた。しばらくはアンプなしで弾いていた。そしてある日、地元オックスフォードのガラクタ市で奇妙なバルブ付きのアンプを見つけた。誰かの手作り品だったようだ。今にして思うと、かなり危ないよね(笑)。
Q:プロ仕様の楽器を手にしたのはいつですか?もともと欲しいものがあったのですか?
A:しばらくそのホフナーを弾いた後、サテライトの素晴らしい335モデルを手に入れた。ライド初期に使ったよ。そしてレコード会社と契約したとき、330と360という二本のリッケンバッカー12弦ギターを買った。あとグレッチのテネシアン。ロンドンのデンマークストリートで全部いっぺんに買ったよ。マークはフェンダーのジャガーと、やはりリッケンバッカーを買った。彼はジョンレノンが使っていた小さいサイズを買って、僕はジョージハリスンやロジャーマッギンと同じ大きいものを買った。
Q:12弦ギターに興味を持ったきっかけは、やはりビートルズでしたか?
A:もちろん、ビートルズの存在は大きかった。そしてジョニーマーも弾いていた。ハリスンとマーはかなり似ている部分があった。半分だけのコード、解放弦、メロディなのかリズムなのか判別できないフレーズ、カントリーみたいなピッキング、そして同じコードを何通りもの押さえ方で弾いていた。とても刺激を受けたよ。アコースティックでは、ポールサイモンが大好きだった。「Scarborough Fair」「Anji」を覚えたよ。難しかったけどね。
Q:それがライドのメロディックな面とギターサウンドのルーツだったのですね。攻撃的なノイズはどのように生まれたのですか?
A:当時周りにいたバンドから影響を受けた。そしてthe Whoの「My Generation」、ストーンズの「19th Nervous Breakdown」。あの曲のベースはノイジーで、下降していくリフが最高だ。そしてMy Bloody Valentine、Spaceman 3、Loopといった、僕たちの少し前から出てきたバンド。彼らにもノイズの要素があった。Sonic
Youthの「Daydream Nation」には多大な影響を受けた。僕たちが最初に書いた曲はとてもイギリス的だった。ソフトでメジャーコードを使った、the SmithsやFeltのような感じだった。でもSonic Youthを聴き始めた途端、僕たちはノイズを出し始めた。全てがより自由に、より芸術的になっていった。「Nowhere」や「Seagull」を聴けば分かる。My Bloody Valentineの影響は大きい。ベースの音、ギターの雰囲気、ドラム、プロダクション。僕たちはノイズに取り付かれていたのさ。
Q:当時、ポストカードレコードと契約することはなかったのですか?
A:最初のリハーサルで、Orange
Juiceの「What Presence」を演奏した。僕たちはまだお互いをよく知らなくて、フィーリングを掴む必要があった。the Stoogiesの「I Wanna Be Your Dog」、New Orderの「Blue Monday」、the Smithsの「How Soon Is Now?」も演奏したよ。
Q:バンドのDNAは最初からあったのですね。
A:そうだね。でも厳密には、演奏を「試みた」だけだ(笑)。コピーしていた曲は、やがて別の何かに変化していった。例えば「How Soon Is Now?」は「Drive Blind」に変化した。
Q:the Stoogiesはシューゲイザーのシーンで巨大な存在だったのですか?Swervedriverも彼らの名前を挙げています。
A:Swervedriverは「Shake Appeal(the Stoogiesの曲名)」から生まれた。彼らは当時、オックスフォードで最も大きなバンドだった。誰もが知る、まさに恐怖の集団だった!彼らを通して僕たちはthe Stoogiesを知り、「1969」や「No Fun」に惹かれた。でも僕たちは一番簡単な「I Wanna Be Your Dog」を演奏した。
Q:あの曲はパンクロックにおける「Iron Man」のようです。抽象芸術からの影響は如何でしょうか?Mission of BurmaやGang of Fourも、抽象芸術の影響を公言しています。
A:僕たちのうち三人はNorth
Oxfordshire Technical College and School of Artに通い、視覚、知覚、脱構築といった考えを学んでいた。その理論を音楽に適用させるのは、自然な流れだった。学校で素晴らしい本にも出会った。ジョンバージャーの「Ways of Seeing」、ロバートヒューズの「The Shock
of the New」は80年代後期の斬新な思考を体現していた。芸術とは何か、そして僕たちは芸術で何をするか、ということを考えたよ。でもバンドのビジュアルを作ったのは、芸術学校に通っていなかったスティーブだった。彼が全てのジャケット写真を見つけてきた。部屋にはいつもアートっぽい写真が飾られていたよ。ナスターシャキンスキーやソフィアローレンの写真を使って、バンドのチラシを作った。アートとセクシーな女優は当時、僕らの常用手段だった。「Nowhere」のジャケットに使った写真は、アルバム制作前から持っていた。あの写真を見ながらレコーディングしたよ。
Q:ジェリコ・タバーンは音楽シーンの中心地だったと聞いています。ライドもライブをしましたか?
A:多くのバンドにとって、初ライブはあそこだった。僕たちはまだ四曲しかなかったから、時間を埋める必要があった。後に「Drive Blind」の轟音パートになる、「Mind Fuck」という曲を演奏したよ。当時はそれ自体が一曲で、もっとゆっくりしたテンポだった。「Chelsea Girl」「Mind Fuck」を五分ずつやって、「I Wanna Be Your Dog」、そしてまた「Chelsea Girl」(笑)フルボリュームで演奏するのは最高だった。それ自体が刺激になる。PAを利用して、ボリュームとノイズを使ったアイデアの断片を作っていったよ。
Q:同じシーンにいた他のバンドに対して、親しみを感じていましたか?
A:Slowdive、Lush、Chapterhouseは友達だった。シューゲイザーではないけど、Blurとも親しかった。グラハムコクソンからレスポールやチョーキングの魅力を教わったよ。「Going
Blank Again」に表れている。全てのバンドはお互いを尊敬し合っていた。ライバルではなく、同じ地下に属する仲間だった。My Bloody ValentineやPrimal Screamとも仲良くなった。皆が同じ目的のために努力していたよ。
Q:ライドはエフェクターを多用していたことでも有名です。初期の頃からそうでしたか?
A:使っていたけど、当時はシンプルだった。ボスの小さなマルチエフェクターを持っていたよ。ディレイ、コーラス、ディストーション、あと何か一つ入っていたな…最大の衝撃はワウペダルだった。すぐにハマって、ずっと使っていたよ。今ではソロのブースト的に使っているけどね。ワウペダルで自分のスタイルを掴んだ。踏み込むほどに、段階的に盛り上がるのさ。
Q:「Nowhere」では、自分たちの美学をスタジオで追及しましたか?
A:最初のEPはデモの継ぎ接ぎだった。二枚目はスタジオに入って作った。四曲を完成させた後、フルアルバムに向けたジャムセッションを始めたよ。結局そのレコーディングからは何も使わなかったけどね。僕たちはコンソールで長い時間を過ごし、曲をコントロールするようになった。EPのレコーディングでは、エンジニアと口論になった。僕たちは間違っていると見られていた。やがてマークウォーターマンに出会った。僕たちが「Nowhere」の準備をしていたEMIスタジオで働いていて、同い年だった。彼となら上手くいくと分かった。彼は決してNOと言わない。むしろ「いいね、最高だよ!やってみよう!」と言ってくれる。「Nowhere」の功績によって、彼はエンジニアからプロデューサーに昇格したよ。ミキシングはアランムルダーがやってくれた。「Going Blank Again」は彼のプロデュースだ。あのアルバムは更なるステップアップになった。もっと多くの時間をコントロールルームで過ごし、Eventideのウルトラハーモナイザーをギターに使ったりした。スレーブのテープマシンを使い、逆回転やテンポ変化、二つの曲を繋げたりもした。「Nowhere」よりも、スタジオを楽器のように扱っていたよ。「Nowhere」はEPよりも洗練されているけど、核の部分ではリハーサルを捉えたものだ。
Q:ライブで再現するのは挑戦だったでしょうね。
A:一つの曲にはいくつものバージョンがあって、その中の一つがアルバムに採用される。ライブで演奏する際には、最初のバージョンに立ち返る。レコードと全く同じである必要はないよ。「Seagull」には複数のバージョンがあって、その中の一つがアルバムに採用された。でもライブでは毎晩のように変化していた。再結成のときにはアルバムを聴いたけどね。「Cool Your Boots」の出鱈目さを、もう一度学び直す必要があった。現在のツアーでは、新しい技術を利用しているよ。昔は自分たちの歌や演奏なんて聞こえなかった。ギターとドラムの轟音しか聞こえなかった。今ではイヤモニのおかげでクリアに聞こえる。昔よりずっと良い演奏ができているよ!
Q:コンパクトエフェクターへの回帰によって、ペダルボードはローテクになりましたよね。
A:最初の頃は、ボスのDS-1、クライベイビー、そしてローランドGP-16のラックマウントを使っていた。今はコンパクトエフェクターしか使っていない。ついに逆回転エフェクターも手に入れたよ。EventideのTimeFactorを使えば、「Seagull」のイントロもレコードそっくりに弾くことができる。
Q:当時からずっと使い続けているギターはありますか?
A:リッケンバッカーの12弦ギターは二本とも使っている。「Seagull」や「Vapour Trail」をレコーディングしたギターさ。
Q:ギタリストとして、今後やってみたいことはありますか?
A:まさに今、巨大なモジュラーシンセを作っている。ギターを繋いでCVコントローラーのように使える。ニューヨークのSnazzy FXが作ってくれた。モジュールを学ぶのは楽しいよ。Make NoiseのPhonogeneがお気に入りさ。とてもワクワクしている。これを使ってレコーディングした音楽をリリースするつもりだ。